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インターネット死体蹴り

道迷い

きつねとの別れのあと

埃の粒子が粉っぽく頬をぬらし 泪の跡が目立たなくなるのを歓迎した

かなしい出来事が多すぎたから

泣き疲れた迷い子はすずかけ通りを南南東へ向かい

加密列の香る国道沿いのバス停で道を尋ねた

「59系統の市営バスにお乗りなさい」

「えのはな駅まで行けば風向きも変わるだろう」

「トークンはあるかね?」

黒ぐろとした影たちは、迷い子に小さなプラスチック片を渡した

やがてバスが木炭の煤を吐きながら走ってきて

迷い子は運転手にトークンを差しだした

小さなさすらい人を眺めるまなざしで運転手は鼻声でうなずき

「早くご乗車ください」

バスが地中に潜ると、みみずとの衝突事故がたえないから

なるべく定刻通りに発車したいのだなと乗客たちがひやかした

迷い子はバスの片隅で体を休め

頭のてっぺんの栓を抜いて体から僻んだ空気を放出した

しぼんでゆく体から 不運の瓦斯が噴出する

めまいと かすかな吐き気

どうやら私はひどい星のもとに生まれたのね、と迷い子はつぶやく

こんな見当違いの錯綜が常態だから

木化石のきつねにつままれて都市空間を放ろうするのだろうか

えのはなに到着したら、あたらしい空気を買わなくては

きつねの鉱毒が混じらない 土地勘が濁らないまっさらな空気を吸い

何年先か 何十年先になるかはわからないが

この空間酔いさえ克服すればきっと私も道に迷わなくなるのだと

迷い子は手のひらを固く結び 祖母のおまじないを唱えた