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インターネット死体蹴り

水彩画

しめりけのある透明水彩として描かれた工場街の遠景

たっぷりの水を含んだ絵筆が水彩紙をなでると

灰と青灰色の作業服の工員たちが

またぞろ工場の戸口からあふれ出てくる

明度の低い群衆が腹を空かし

食堂のあるトタン屋根のバラックへと殺到した

ときおり人の流れが悪くなって

高脂血症を病んだ血管のように人びとがわだかまり

食券の券売機の辺りに乱れた筆先の苛立ちがつのってゆく

雨にふられてずぶぬれの無口な男たち

朝から不機嫌な職人の群れに放りこまれ

見習い工員たる臆病な少年は

作業帽をまぶかにかぶって落ちつかず 自分の方位さえ定かではなく

手にした食券に〈A定食〉と印刷されているおかげで

かろうじて自分が食べたいものが分かるくらいだ

この少年もまた 青の顔料とメディウムの霧雨に撲たれる哀れな

ぬれねずみとして描きだされ

絵画世界の人物特有のアムネジアにやられちまったんだろうさと、

不精ひげを蓄えた老画家が辛気くさく独白した