log.31

インターネット死体蹴り

鉄橋

囀る鶯が影絵として鉄橋を照らし 蛍火の流れる街辻 おまえの息は色を銀に曇らして弾む襟巻の 毛先には埃として 雪 抱き合うのか? 橋の上へ 濁るドブ川の底へすべってゆく 靴はそろえて 靴はもう脱いである 靴は

呑気症

呑気症の孤独胃袋の底へ溜まる空気は比重が重く 水銀のげっぷに食道がやられっぱなし ひくつく喉の卑屈なめらかな飴で喉をうるおし ふくれあがる卑屈な胸の奥の小石は膠で固められ 塗りかためられ おどろおどろしく仰々しい人生なんて 誰も彼もが一方通行だ…

竜を

木蔦絡んだ牢獄で 暗い木目の格子ごしに考えるのは奪われし日だまりの 広場きついコントラスト白く飛んだ街 僕ら手を取り合い渉猟した 夏の残滓としての青灰色の入り江を おまえ受肉されしおまえの苦難を和らげるきよ水を 汲め汲めどもすくえないのなら 僕は…

羊歯食み女

羊歯食み女のへそに似ていて 暮らしよい巣穴を見つけたけれど そのうち追い出されるに決まっているから おいらには分かるんだ マルベリーの畑を踏み荒らす巨人たちが えらく不機嫌なことくらいは

倦怠

味のしないガム咬んでこんな作業に従事して昼 火星まで行き運河をがさがさ網の目に星の砂がかかるので 「アア。日々の著述作業の疲れが出たようだ」などと あくびをして あくびを何度もして 網の上を歩く芸人の空は青金石をまぶして数万トンもの重しとして …

逆子

いつだってそこは静かな沼地で 泥にまみれるのを厭いながらも還る場所だ 集めたまえ 絞りだされたモンブランの柔らかい過去を おまえの信じる愛情の雫が発酵した慈雨となるのであれば 芯のある共同懸想を求めるのならば おまえは達しうるか? 煮える瀝青をた…

こぼれる花粉について

石蔭から引きずりだそうというのか 報われぬ横着者の住む桟橋に 保たれる花嫁を焼く村の窯 心くるおしくも胸かき乱される客人たち その席の 薫付きろうそくに灯れ 凍てつく冷たい炎 不感症のおまえの手のひらを灼くほどの

勇気

だめになるのではない だめとなるのだ 否定のその内側へ鋭角に潜りこむことで 否定はおまえを肯定するだろう きわめて局地的なその戦いをもぎとれ

鳥かごから鳥かごへ

鳥かごを購入したもちろん自分が住むための 駅前の黒いお湯が湧く銭湯の裏の小さな小さな鳥屋さん セメントの床は糞で白く 糞のにおいがまんべんなく垂れこめて 文鳥や四十雀がなきわめくの店内で 僕は竹あみのかごを購入した自分を住まわせるための 真鍮の…

同席

僕の座るテーブルの正面と斜め向かいに 豚のマスクをした女性が二人座っている 女たちは僕に断りもなく爪をおろし金で削りだし 生みだされたカルシウム粉末を粉薬のようにして飲んだ そして僕の知らない言語で軽やかに歌いだした おいしい残飯の在処 素敵な…

金平糖ワルツ

混ざりものの多い透明な糖蜜に 赤や白や黄色をしたざらめの星が爆発した それらの矮星は子供たちの口の中の宇宙で攪拌され 舌先でねぶられざくざくした砂糖片として咀嚼されて その一生を終える運命なのだが なかには気骨に富んだ反抗心を具有するやつがおり…

傷心

睡魔が僕のまぶたを引っぺがしたのは 孔雀石のかたちをした想いに理屈が必要だったから 簾をすかして吹く午睡の吐息に奪われたのか まなつの夜のプールの 塩素で満たされた暗夜の青と 理不尽にもぎ取られた柿、柿、未熟のままで 腹這いで袖を滑り止めにして…

ぎんいろヒューマン

この一瞬一秒が銀なのだ この人生が孵化しこの人生がみずかびに被われるまでが 掛け値なしの銀なのだと 君たちは有限の銀鉱を喰って肥えてゆく贅沢な生き物で つまらない争いや憎しみを排泄しては 気の毒な嫌気性のバクテリアどもの余計な仕事を増やし 世界…

シスターミート

魚の似顔絵として立ちあがるまで秋の旅はつづく 陶器を泳ぐ魚としてまでおまえを愛したいのだが 先日から妹は体調をおかしくし もうすっかりだめかと思われたのだが 僕の妹肉はある程度の修復を受け入れてくれて だがそれは日増しに増大して 僕と描きかけの…

止水域

忌み者の沼に僕らは沈んだ 糸引く藻類の聯想 とめどなく繋ぐ数珠の追憶 離れるな、蔭人のたくらみが 奸計が僕らの絆を 毀損しようと 光の 光射さない水深へ 底打つ止水域の 軟らかく汚泥とデトリタスとして舞踏する生活へ 営んでいきたい、今ふたたび歩んで …

晩餐会

豚の食事会に誘われた それは一種の名誉と考えられた 赤い封蝋を捺した角封筒 ひび割れた蹄の印を剥がした 牧草の香る便せん 几帳面な筆記体 荘園領主のマナーハウスへつづく蛍火の畦 芽吹くままに包んでゆく暗緑色の森 苔の手土産を蔓草で結わえ ゆくだろう…

ひとりぐらし

振り払わなくてはならないこの惑星の温度を 真夏のデリーのような熱風が僕には空気が辛すぎるから 僕の体のひょろっとした放熱板ではもうこの熱を抑えきれないから できれば君を連れてゆきたいけれど 今となっては無理な相談さ 振り切らなくてはならないこの…

HKT48

寝室でコバエが落ちはじめた 家主が餌を与えるのを躊躇いだしたから シーリングライトを踏んで輕快にポンピングし 気ままな王族として君臨していた彼らの栄華は徐々に翳りを帯び 壁面に付着した壁のシミの一点として振る舞う礼節を学んだ 老齢の哲学者として…

ネクタイを緩めろ

貪欲なボアのネクタイが僕の首をぐいと絞めあげるたび、 またひとつ貴重な命をおとした(幾つもの命がすでに散らされ) あるはずのものがなくそれはあるはずもなく ないものだけをねだる求不得苦 気道が悶え頸動脈を流れる血液苛つき ワイシャツの糊効きすぎ…

老化

すべての希望のえにしだ 手折られて束ねられ 肉体を簀巻きにする環境倫理 共同体からの隔絶は根深く 僕の説教にちからはなく こぶしに血が滲むまで叩くのか 夜ごと問われるおきての門を 夜ごと供えられるえにしだの檸檬色の花束を どう猛な香辛料を含んだ、…

死者蘇生

ぬれた黒土食べたがるばらの庭に貴女は埋められた後頭部を強く撲たれ 花嫁衣装は朽ち果て干し花のブーケはそのにおいを憂い顔にとざされ 来るのを待った百年の歳月は長く短く雨と雪かわるがわるかさねられ 小指に結わえられた糸の約束臙脂のベルベットの強靱…

靴下泥棒

靴下を靴下をください貴方のとっておきの靴下を 黙ってないで私にください 渡してください半日はき通した酸っぱくぬかるんだその靴下を さもなくばしなくてはならない泥棒を 人がはいている靴下をくすねるにはちょっとしたこつが要るんだ いちばんのカモはぐ…

サウダージ

分厚いアクリルのような透明な壁に囲まれた保育園の 模造赤玉土の荒れ庭に僕はまだひとり立っている 土をいじり、地面をせわしなく行き来する擬造蟻体の列を 餌を巣穴へ引っ張りこむまで飽きることなく眺めた お昼休みになると緑色の子供たちが僕を誘ってく…

祖父の帰還

雪花石膏の茅花をながして 曼珠沙華の萼の輪郭がもろく崩れさる 眠るための居場所を求めてもうろうとした視線が泳ぐ 翡翠の花の丘を とうろうの泳ぎつく視線の先を 村を焼きだされた犠牲者の靴 まあたらしい少女のサンダルが 溶解したプラスチック片が彼らの…

灯台へ

けものあぶらの火にあぶられ ランタンのがらす窓がくろく油じみで煤けてゆく 灯台守としての日課である夜ごとの火入れのため 背筋のまがった老父は ふじつぼまみれの磯べりの階段を シブレの杖をついてくだってゆく 目なきである海底泳行群を導くための深海…

未完の恋のcoda

女の子たちは虫歯の奥に恋心を隠している これはまったく本当の話だ 二人でみかんの海を泳ごうと誘ったときに 君がいかめしい顔をしたのは 胸の虫食み穴につぶつぶのみかん汁が染みるからだ 僕の不埒な雄の昂ぶりが君の羚羊の悲鳴となって ふたりきりの海水…

義眼交換会

木曜日の午後の定例お茶会で 六人の少女たちがそれぞれ持ち寄った私製義眼を交換する くずきりの硝子体、羊羹の瞳孔、飴細工の角膜が 青くくすんだ瀬戸物の皿に一揃いずつ置かれて ぬらりとした涙液の中にひたされ ティーポットの中の紅茶葉が蛹から孵る毒蛾…

日々の祈り

骨肉をすり減らして働く生活が切れ間なく営まれ 日々の祈りがその強度を増した 駅の公衆便所に膝を突き 糞便と尿にまみれた床にぬかづいて 再生紙のちり紙を苦行者のごとく奥歯でかみしめ 僕は僕の先細る魂と 貴いしろがねのすべてを賭して この街を遍く見守…

道迷い

きつねとの別れのあと 埃の粒子が粉っぽく頬をぬらし 泪の跡が目立たなくなるのを歓迎した かなしい出来事が多すぎたから 泣き疲れた迷い子はすずかけ通りを南南東へ向かい 加密列の香る国道沿いのバス停で道を尋ねた 「59系統の市営バスにお乗りなさい」 「…

黄昏

サイダー壜の底にうずくまる 気泡を固める仕事を行ううち 甘やかな少年の心は穿たれた 冬の日のアトリウムは人類が 滅んだあとの閑けさに抱かれ 眠気が木々のすきまへ溜まる 瓦礫の上に音もなく雪降る刻

水彩画

しめりけのある透明水彩として描かれた工場街の遠景 たっぷりの水を含んだ絵筆が水彩紙をなでると 灰と青灰色の作業服の工員たちが またぞろ工場の戸口からあふれ出てくる 明度の低い群衆が腹を空かし 食堂のあるトタン屋根のバラックへと殺到した ときおり…

炭酸浴

とねりこの森 白くすべすべした玉砂利の小径 ソーダ水の湧く泉 私たちの組は麻の布で、ぎしぎしした未熟な果実を隠して 微炭酸の揺蕩う水辺に手足をひたした 沐浴は日が暮れて仲間の顔の区別がつかなくなる頃から 物見塔の突端へ月のかかる頃まで営まれる 木…

年代記

雪融けの流水に洗いぬかれた骨の体を木陰にさらした 白く漂白され 木管楽器の空洞を抱えて 別離の季節は爪弾かれてゆく やがて骨は月日の重みに耐えかねて おのずと生じた割れ目や陥没を 無数の怠惰な苔が繁茂した すなごけ ぎんごけ 骨という骨を ビリジア…

バレンタインデー

鬼灯色をした硝子の球体を口に含んだ 舌で転がしたなめらかなあめ玉の味 奥歯で噛むと硝子に亀裂が生じて ぴしん、ぴしんと共鳴した 続いて素焼きの陶器の破片を口へ入れる 舌先が土っぽくざらつく 味覚を刺激するのは子供の頃遊んだ花壇の味 粘土の粉が糸切…

月見酒

見事な月の晩なので 僕らは全身を無数の月光で貫かれ ほとんど瀕死だったのだが 酒飲みの卑しさで まだ飲み足りないとコンビニで酒を買い 川辺で月見酒と洒落こむことになった 冬枯れの葦の繁る土手を 体の無数の傷穴から酒気を垂れ流してよろめき下った 上…

次の詩へ

埋葬されてすぐ墓から蹴りだされて次の仕事が与えられた むかでを集める道具でむかでを集めてむかで油を作る 作ったむかで油を売ってお金を集める 集めたお金でむかでを集める道具を作る くりかえし そのくりかえし 仕事がつらくて何度となく穴を掘って逃げ…

飢餓

傷んだバターに含まれる蠱惑的な乳脂肪分が 精神に奇妙な作用をもたらしたのか? 僕らはもう ずいぶん長く人間の食べものを口にしていない 配られた乾燥したパンにバターを塗り重ね 青く黴びたバターの天鵞絨の地層を 一枚ずつ舌で舐め剥ぐうちに 僕らは伝染…

ボイジャー

渦巻銀河への定時通信のため 紅くちりつく高感度アンテナをたてた 高ぶる鼓動が同期して 貴女の内宇宙の声が 非可逆の圧縮音源として僕のなかへ送られてくる 星と星はたがいの産毛を意識するほど近く 僕らは血管のノードを通してせわしなく星間飛行を行い 音…

臨終

金貨を数えるようにして数えた死ぬまでの幾日かを 安酒を飲んで使い果たした 死神が手首を取るとすでに脈はなく 今はただ酩酊だけが僕の付き添いとしてふさわしい ねえ頼むよ お願いだ 二日酔いの僕の唇へとっておきのタンカレーを入れてくれ 飲んだくれの最…

ピラミッド

王の墳墓を築くため男たちは巨石を牽く 並べた丸太の上を 物言わぬ花崗岩の物量が搬ばれてゆく 石切場との往復で 一日をとぼしく使い果たした肉体は 活力を振り絞り 菜種の滓として無惨に抛りだされた だが精神はむしろ疲労の極みに昂ぶり 慈愛の気持ちさえ…

勤務時間

歯車が噛んできつく巻かれたぜんまいがゆるみだした 産業をなめらかに動かすための潤滑油がさされ 鐘楼の鐘と共にある農夫たちの観念としての時間が 陶製の堅固さをもって立ちあがりだした 日の出から日の入りまでの角度を 分度器なんぞで計る非情なくわだて…

眠れる季節

アタラクシアの夜の果実 円い錠剤のかたちをして 奥歯で噛むたび苦くえぐみの出る林檎の種子を 寝入る前に一粒ずつピルカッターで砕き割って 舌で巻きとるようにしてごくりと呑みくだした シトラスシャンプーの香る枕カバーをひたいでぐりぐり推した 胃に調…

冬眠

冬ごもり のために大量のくぬぎを必要とした 僕らは集めた 朽ち葉を細かく咬んで おがくずの寝床をしつらえた 菌糸ベッドで眠るわが子を おがくずのふとんにやさしくうずめ 妻はあくびをかみ殺し 僕の寝間着の袖をひいた 僕らはくぬぎの底で 深くゆるやかな…

爪たちの休息

工場の天窓から射した峻烈な秋日 耐熱紙コップを照らしてよ 埃の浮かんだ杜仲茶を労働明けの咽喉が飲み干したなら 透明バッグの中の薄紅梅のリップや柑橘のデオドラント 疲労にくすんだ掃除女が休憩室のテレビの前に腰をおろした 釉薬を垂らした百均のちゃち…

人身事故

たび重なる人身事故のたび京急線は人員輸送としての機能をうしない 勤め人と学生で膨らんだ深紅の車体が立ち往生した 繰りかえされる車内アナウンスに耳をすまし 乗客たちは 最初のうちこそ押し合いへし合い反目するのだが やがて倦み疲れて京急川崎駅辺りで…

希望に涌く蟲

壜を購入したいのちの水をそそぐための壜を 僕はそれを枕もとに置き うなされて目覚めるたびひとくち飲んだ 分厚いカーテンをおろした暗い寝室で結露した くみ置き水は月日が経つにつれ腥くとろみを増してゆく 壜の中でぼうふらを湧かしたのか 体内で孵化し…

死の運び手

次なる苦痛の担い手たち 煤を吹く死者たちを籠に背負い運んでゆく 死は彼らの背中で醸成され 痛みの濃度は静かに高まってゆく 死者たちの発するおぞましい苦痛が揺さぶられるたび 籠の編み目から無数の焦げた煤が漏れだし 瀝青を垂らした跡が 点々と彼らの歩…

バラッド

月の宵男たちは声もなくウイスキーで 武装する夜気の垂れこめる沙漠の夜はあまりに 肌寒く酒なしではとうてい遣りきれない 酒壜の封蝋をナイフの刃先でそぎ落としきつく 締まったコルク栓を歯で噛んでひっこ抜く男たちは 鼻孔をくすぐる鼈甲色の液体で砂っぽ…

再訪

訪問者の途絶えた九〇年代の個人サイトを巨石記念物として称えよ! デジタル信号の墓標の墓前へ肉詰め罐の造花を献じよ! 疎んじられた塚人たちがまどろむ創世記の電子交流網の 無数の掲示板の底へ堆く堆積した まれびとの書きこみを墓碑銘と認めよ! われわ…

薫る紅茶の旅情

ティースプーンで突き崩した角砂糖のなかに ひとさしの旅情を発見した 親切な誰かが僕の紅茶に浮かべてくれたのか 褐色の少女たちが揉んだ紅茶葉には 僕の旅立ちをそそのかす 期待と不安をない交ぜにした香気が含まれているのだろう 食道を流れ落ちる誘惑は…