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インターネット死体蹴り

鉄橋

囀る鶯が影絵として鉄橋を照らし

蛍火の流れる街辻

おまえの息は色を銀に曇らして弾む襟巻の

毛先には埃として 雪

抱き合うのか?

橋の上へ

濁るドブ川の底へすべってゆく

靴はそろえて 靴はもう脱いである

靴は

呑気症

呑気症の孤独胃袋の底へ溜まる空気は比重が重く

水銀のげっぷに食道がやられっぱなし

ひくつく喉の卑屈なめらかな飴で喉をうるおし

ふくれあがる卑屈な胸の奥の小石は膠で固められ

塗りかためられ おどろおどろしく仰々しい人生なんて

誰も彼もが一方通行だなんて

竜を

木蔦絡んだ牢獄で

暗い木目の格子ごしに考えるのは奪われし日だまりの

広場きついコントラスト白く飛んだ街

僕ら手を取り合い渉猟した

夏の残滓としての青灰色の入り江を

おまえ受肉されしおまえの苦難を和らげるきよ水を

汲め汲めどもすくえないのなら

僕は竜を呼ぶいっぽんの象牙の笛となろう

砦へと運ぶあの竜を呼ぶ笛となろう

羊歯食み女

羊歯食み女のへそに似ていて

暮らしよい巣穴を見つけたけれど

そのうち追い出されるに決まっているから

おいらには分かるんだ

マルベリーの畑を踏み荒らす巨人たちが

えらく不機嫌なことくらいは

倦怠

味のしないガム咬んでこんな作業に従事して昼

火星まで行き運河をがさがさ網の目に星の砂がかかるので

「アア。日々の著述作業の疲れが出たようだ」などと

あくびをして あくびを何度もして

網の上を歩く芸人の空は青金石をまぶして数万トンもの重しとして

彼を抑えつけているのだ そしてその頭上の成層圏から

人工衛星の感情のない瞳 彼の慎重な だがたゆまぬ歩みを見つめる

幾千もの無機物のまなざし 稠密な機械のまなざしだ

「アア。それだってくたびれ果てた末のまぼろしさ!」

あくびのしすぎで目に涙を溜めて 目やにをほじくり返して

涙の星があまねく天の川を

囲繞する 充満する 横溢する星の輝き

逆子

いつだってそこは静かな沼地で

泥にまみれるのを厭いながらも還る場所だ

集めたまえ 絞りだされたモンブランの柔らかい過去を

おまえの信じる愛情の雫が発酵した慈雨となるのであれば

芯のある共同懸想を求めるのならば

おまえは達しうるか?

煮える瀝青をたどる巡礼のあまりに青すぎる青

臍が喉へと絡みつく

こぼれる花粉について

石蔭から引きずりだそうというのか

報われぬ横着者の住む桟橋に

保たれる花嫁を焼く村の窯

心くるおしくも胸かき乱される客人たち その席の

薫付きろうそくに灯れ

凍てつく冷たい炎 不感症のおまえの手のひらを灼くほどの

勇気

だめになるのではない

だめとなるのだ

否定のその内側へ鋭角に潜りこむことで

否定はおまえを肯定するだろう

きわめて局地的なその戦いをもぎとれ

鳥かごから鳥かごへ

鳥かごを購入したもちろん自分が住むための

駅前の黒いお湯が湧く銭湯の裏の小さな小さな鳥屋さん

セメントの床は糞で白く 糞のにおいがまんべんなく垂れこめて

文鳥四十雀がなきわめくの店内で

僕は竹あみのかごを購入した自分を住まわせるための

真鍮の金具が取付られ 止まり木には鉄条網が張りめぐらされ

とまるたび足の裏が傷つくが そんなのは些細な欠点だ

餌皿は深くて稗や粟がたくさん入るし

水飲み場では顔を突っこんで思うぞんぶん水浴びができる

男やもめの独り暮らしには十分な広さだ

僕はせっせと巣を調えて つがいとなる女性があらわれるのを

待つことにした 尾羽をていねいにブラッシングして

女性を呼ぶための恋の歌まで練習しだして

そんなわけで そんなわけだからか

鳥かごの入り口は今日もあいている さあ どうぞ

 

同席

僕の座るテーブルの正面と斜め向かいに

豚のマスクをした女性が二人座っている

女たちは僕に断りもなく爪をおろし金で削りだし

生みだされたカルシウム粉末を粉薬のようにして飲んだ

そして僕の知らない言語で軽やかに歌いだした

おいしい残飯の在処

素敵な交尾相手に関するうわさ話

豚には豚の倫理と条理があり 僕なんぞの立ち入る隙はないのだと

思い知れ

なにしろそれは彼女たちの

宇宙の配列に関わる重要な事実なので

僕ごときなんぞは立ち入る隙はないのだと

思い知るがいい

金平糖ワルツ

混ざりものの多い透明な糖蜜

赤や白や黄色をしたざらめの星が爆発した

それらの矮星は子供たちの口の中の宇宙で攪拌され

舌先でねぶられざくざくした砂糖片として咀嚼されて

その一生を終える運命なのだが

なかには気骨に富んだ反抗心を具有するやつがおり

子供たちが菓子袋を逆さまにした際にひときわ高く弾けて

自らの道を切り開こうと企んだりする

そうしたこがねの精神の持ち主が われわれの中にも少なからずおり

彼らの輝くざらめの太陽が

今宵もまた天道を真っ赤に燃えながら駈けてゆく

 

傷心

睡魔が僕のまぶたを引っぺがしたのは

孔雀石のかたちをした想いに理屈が必要だったから

簾をすかして吹く午睡の吐息に奪われたのか

まなつの夜のプールの

塩素で満たされた暗夜の青と

理不尽にもぎ取られた柿、柿、未熟のままで

腹這いで袖を滑り止めにしてひねるあんずジャムの壜は

今まで以上に渋みを増して

なお甘くて夜通し泣いた後の味がした

セーターの襟ぐりから恋心は逃げるとして

それはきっと縫われた糸のほつれ目で

繊維を引っ張ってゆくうちに

自然と編み目がくずれてゆくもので

なんてことはない風邪のひきはじめの微熱に似ている

 

ぎんいろヒューマン

この一瞬一秒が銀なのだ

この人生が孵化しこの人生がみずかびに被われるまでが

掛け値なしの銀なのだと

君たちは有限の銀鉱を喰って肥えてゆく贅沢な生き物で

つまらない争いや憎しみを排泄しては

気の毒な嫌気性のバクテリアどもの余計な仕事を増やし

世界の脱窒を疎外してのほほんとしている

くそどもめ

73億人分の呼吸を集めて風に吹かして散らしてしまえ

シスターミート

魚の似顔絵として立ちあがるまで秋の旅はつづく

陶器を泳ぐ魚としてまでおまえを愛したいのだが

先日から妹は体調をおかしくし

もうすっかりだめかと思われたのだが

僕の妹肉はある程度の修復を受け入れてくれて

だがそれは日増しに増大して

僕と描きかけのカンバスの置かれたスペースを圧迫した。

おまえがどこまで肥え太るのかはわからない

僕に分かるのは僕らにふさわしい季節は秋だということだけで

それさえ喉をくすぐる精神安定剤

口に含んだ白湯に取り残された

ちょっとしたマチエールにすぎないのだから。

それさえ君の肉の そのぶよぶよした愛おしい二の腕の

閨房でのうでまくらの やさしい贅肉の近親恋愛の味に比べれば

気まぐれのまやかしでしかないのだから。

魚の似顔絵は焼き捨てられ網目が焦げ付く秋刀魚が香る

秋は近い 僕らが息づく安息域としての秋に

妹肉よ 謹慎がとかれた今

おまえは僕らの子供を身ごもってくれるだろうか

止水域

忌み者の沼に僕らは沈んだ

糸引く藻類の聯想 とめどなく繋ぐ数珠の追憶

離れるな、蔭人のたくらみが

奸計が僕らの絆を

毀損しようと

光の

光射さない水深へ

底打つ止水域の

軟らかく汚泥とデトリタスとして舞踏する生活へ

営んでいきたい、今ふたたび歩んで

一本のともしびを水中花として掌を焙る日々を

分け合う熱の冷め遣る夜半

疎んじられた重力のくびき

ミドリ水で洗う破れた鼓膜にさした一条の血のすじ

青ざめている 君の血の色に似ていて